【事例】ヤシノミ洗剤のサラヤ、社会と事業との両立をいかに実現したのか

【事例】ヤシノミ洗剤のサラヤ、社会と事業との両立をいかに実現したのか

関係をつくるのが先、事業の変更は後だった

2004年8月、テレビ番組が罠で傷ついた子象の映像を流しました。原因として名指しされたのはパーム油のプランテーションで、それを使う企業として、サラヤ株式会社(以下、サラヤ)とヤシノミ洗剤が紹介されました。放送後、サラヤに抗議が殺到しました。

拓殖大学の李燕先生と潜道文子先生は、論文「制度的実践によるCSRの制度化:サラヤ株式会社の事例研究」で、この後にサラヤが何をしたかを追いました。2018年4月から2021年12月にかけて、社内9人と社外の関係者10人に計24回・約42時間の聞き取りを行い、参与観察も29回重ねています。

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社内には「NPOに100万円くらい寄付すればいい」という声もあったといいます。サラヤが選んだのは、寄付ではありませんでした。まず現地に調査員を送ります。手がかりはなく、社長と面識のある大学教授の紹介で国際協力の経験者を採用し、送っただけでした。その調査員がJICAを介して現地の日本人生物学者と出会い、野生動物と農園の生息域を分ける「緑の回廊」という構想を知ります。

ここで知ったのは、パーム油を止めろという主張が現地では通らないことでした。パーム油は基幹産業で、マレーシアで数十万人の雇用を生んでいます。一方的な批判は現地に住んでいない人の価値観の押しつけになる、と生物学者は言います。

サラヤはこの構想に協力し、2005年には持続可能なパーム油をめぐる国際団体RSPOに理事会員として加盟します。ただ、思いどおりには進みません。総会で主要河川の両岸1キロを保護林にするよう提案しましたが、1キロ四方の農園からは年2200万円の収入が生まれるため、オーナーが猛反対し、撤回しています。

変わったのは、事業のほうでした。テレビCMをやめ、広告費を現地の活動に回します。代わりに、ヤシノミ洗剤の売上の1%を保全団体に寄付し、そのことをパッケージに書きました。原料も、コストが1割から1割5分上がる認証油に切り替えていきます。2018年6月時点で認証油の使用割合は61%。2位の味の素11%、花王13%と比べても突出していました。

ヤシノミ洗剤の売上は、批判を受けた2004年から2007年まで横ばいかやや低下。寄付付き商品を始めた2007年からは前年を下回らなくなり、2022年には2004年比で約2倍になったと同社は説明しています。

ただし、経営者の価値観や、非上場のオーナー企業という組織のかたちが、この動き方を可能にした面がある。異なる条件でも同じことが起きるかは今後の研究課題だと、両先生は述べています。

発信を先に決めるか、見に行くのが先か

本研究が追ったのは一社の20年ですが、順番の話として読むと、他人事ではなくなります。批判を受けたとき、多くの組織はまず何をどう発信するかを考えます。サラヤが先にしたのは、現地に人を送ることでした。

発信を先に決めると、その内容を守ることが目的になります。寄付の額も報告書の書きぶりも、批判が収まる水準で決まり、問題そのものは残ります。関係を先につくると、そうはいきません。サラヤは提案を撤回させられ、農園オーナーとは協力と対立の両方を経験しました。その過程で現地の事情を知り、自社に何ができるかを知る。認証油への切り替えは、そのあとに出てきたものです。

職場に置きかえると、取引先やユーザーからの苦情が近いかもしれません。返答の文面を整える前に、その相手のところへ一度行ってみる。何に困っているのかを、自分の目で見てくる。相手の言葉をそのまま引き写すのと、困りごとを見たうえで書くのとでは、同じ謝罪文でも中身が別物になります。二度目に同じ苦情が来るかどうかも変わってきます。

もうひとつ近いのが、サステナビリティ関連の開示です。開示項目の一覧が先に配られ、それを埋める順に活動を決めていく。報告書の体裁は整いますが、現場は変わらないままになります。

もう一つは、どれだけの時間を見込むかです。この会社が結果を語れるまで、20年近くかかりました。四半期で答えの出る話ではない、という前提を持てるかどうか。持てないなら、寄付で済ませるほうが合理的です。正しさの話ではなく、どちらの時間軸で走るかを先に決めておく、ということです。

批判されたとき、どう見せるかを先に考えるか、何が起きているかを先に見に行くか。分かれ道はそこにありました。片方は早く終わり、片方は20年続いています。

記事原案 M.Sumida

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