メイカースペース、ハードウェアの起業には効果あり。企業全体の後押しにはならない 米国調査

メイカースペース、ハードウェアの起業には効果あり。企業全体の後押しにはならない 米国調査

ソフトウェアの案件は、統計的に動かなかった

メイカースペースという場所があります。3Dプリンターやレーザーカッターなどの加工機械と材料をそろえ、会員なら誰でも使える施設です。起業を後押しするといわれ、この10年で増えました。米国の404か所を調べた研究が示したのは、効果が届いたのは物をつくる案件だけ、という結果でした。

テキサスA&M大学のジアイー・バオ先生は、論文「Do makerspaces affect entrepreneurship? If so, who, how, and when?」で、メイカースペースが起業に与える影響を検証しました。

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集めたのは、2004年から2021年に米国で設立されたメイカースペースの情報です。ウェブや報道をたどって確認し、195都市圏の404か所を分析に使っています。起業の側は、クラウドファンディングのキックスターターで2009年から2020年に立ち上げられた案件です。94都市圏の134,055件、起業家109,075人が対象です。

難しいのは、もともと起業が盛んな地域にメイカースペースができやすい、という逆の因果です。バオ先生が使ったのは、各都市圏で最初に開かれたメイカーフェアという催しの当日の天気でした。雨が降れば来場者は減り、その後のメイカースペースの設立も鈍る。天気は起業の盛んさとは無関係なので、設立数の影響だけを取り出せます。

結果は、はっきり分かれました。メイカースペースが増えた都市圏では、ハードウェア案件の立ち上げが増えます。一方、ソフトウェア案件と非技術の案件では、統計的に意味のある増加は見られません。事業化の側も同じで、目標額に達する確率が上がったのはハードウェア案件だけでした。

増やしたのは誰かも調べています。効果が大きかったのは、初めて案件を出す人でした。なかでも目標額1万ドルを超える案件、つまり最初から事業にする気だった人への効果が大きくなっています。

なぜ効いたのか。経路は二つです。一つは道具の提供です。目標額の大きい案件ほど、また起業の支援環境が弱い地域ほど、効果は大きくなりました。案件ページの更新回数も増え、試作を繰り返した跡がうかがえます。もう一つは人の交流です。複数分野にまたがる起業家ほど効果が大きく、同じ地域のハードウェア案件どうしで説明文の言葉が似てくることも確認されています。学びが伝わっている、という解釈です。

ただし、誰がどれだけメイカースペースを使ったかというデータはありません。地域単位の平均を見たもので、個人の利用実態は追えていないと、バオ先生自身が限界に挙げています。

支援は、誰のどの壁を取り除くのか

この研究が突きつけるのは、支援と制約の噛み合わせです。同じ場所を用意しても、試作の道具がなくて止まっていた人だけが前に進み、そうでない人は動きませんでした。支援が取り除く壁の前に、その人が立っているかどうか。効くか効かないかは、そこで決まります。

社内にも、同じようなことがないでしょうか。新しいツールを導入し、相談窓口を開き、勉強会を始める。利用率は上がっても成果が変わらないとき、疑うべきは施策の質ではなく、誰のどの壁を取り除くつもりだったかです。

まず確かめたいのは、止まっている理由です。企画が進まないのは、道具がないからか、時間がないからか、決裁が下りないからか。理由が違えば、効く支援も違います。新規提案が出てこない部署に発想法の研修を入れても、実際に折れているのが上司の一次差し戻しなら、変わるのは研修の満足度だけです。

効果を測る段になると、平均が邪魔をします。全体をひとまとめにすると、効いた人と効かなかった人が混ざって、動きは打ち消されます。この研究が分けたのは、ハードとソフトという案件の種類でした。社内なら、部署か、職種か、経験年数か。制約の中身が変わる線で分けて数えると、効いた層と効かない層が見えてきます。

もう一つ目を引くのは、道具の提供と人の交流が、互いを支え合っていた点です。共有の道具は、集まる理由をつくります。論文も、共通の作業対象があるからこそ、近くにいることが学びにつながると述べています。研修室や実験機材を置くなら、使う時間だけでなく、顔を合わせる設計まで考える余地があります。

場をつくれば起業が増える、という話ではありませんでした。その場はどんな壁を取り除くのか。そして、その壁の前にいるのは誰か。支援を設計するとき、先に見るのはそちらです。

記事原案 M.Sumida

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