スタートアップを伸ばす人脈の設計図 「つながりの数」だけでなく「質」と「開き方」が成長を左右する

スタートアップを伸ばす人脈の設計図  「つながりの数」だけでなく「質」と「開き方」が成長を左右する

866社の分析が示した、成長する会社のつながり方

スタートアップの成長は、技術や資金だけでは決まりません。日本の866社を分析した研究が示したのは、「誰と、どうつながっているか」すなわち、人脈の質と開き方が成長を左右する、という結果でした。

研究が導き出した答えは明確です。起業家どうしのつながりは、スタートアップの成長にプラスに働いていました。しかも、ただ知り合いが多ければよいのではありません。とりわけ効果が大きかったのは、人脈の結節点となる有力な起業家と結びついているかという、つながりの「質」です。そのうえで、仲間内で閉じずに外へと開かれたつながりを持っている会社ほど、より成長しやすいという結果が出ています。

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そう示したのが、東京大学の穴井宏和先生の論文「起業家コミュニティはスタートアップを成長させるのか?」です。穴井先生は、国内最大級のスタートアップ・データベースなどをもとに、株式で資金調達を行った866社の情報を集めました。そして、どの企業がどの投資家から出資を受けているかをたどり、投資家を介して起業家どうしがつながるネットワークとして描き出したうえで、つながりの豊かさとその後の成長(時価総額や従業員数)との関係を統計的に分析しています。ここで工夫されたのが、「つながりが多い会社は、もともと有望だっただけではないか」という疑いへの対処です。機械学習を応用した統計手法でこの影響をできるだけ取り除き、つながりそのものの効果に迫りました。

分析の結果、成長を後押しするつながりが三つ確認されました。

一つ目は、先輩起業家とのつながりです。事業を成功させて売却・上場した起業家が、今度は投資家として次の世代に出資し、資金だけでなく経験や助言を還流させる。論文はこれを「起業家リサイクリング」と呼び、その効果を確かめました。二つ目は、同じ時期に挑戦を続ける『同輩(現役起業家)』とのつながりの数。そして三つ目が、先ほど述べたつながりの質です。数の効果だけでなく、有力なハブとなる起業家と結びついているかという『質』もまた、成長を大きく後押しする強力な要因であることが示されています。 
加えて、つながりの「形」も効いていました。身内で固まった閉鎖的なネットワークより、開かれたネットワークを持つ会社のほうが成長しやすい。開かれたつながりには多様な情報や人脈が流れ込みやすいためだと考えられます。

ただし、これは一時点のデータにもとづく分析で、時間を追った変化までは捉えていません。起業家への聞き取りによる質的な裏づけも今後の課題と著者自身が述べており、大きく育った企業ほどデータに残りやすいという偏りにも留意が必要です。

「質」と「開き方」で人脈を再設計し、実務に活かす 

この研究から得られる教訓は、「つながりは戦略資源であり、数ではなく『質』と『開き方』で設計する」という視点です。

まず「質」について。
交流会で名刺を増やすことと、ハブとなるキーパーソンと信頼関係を築くことは別物です。本研究では、単につながりの『数』を増やすだけでなく、キーパーソンと結びつく『質』を高めることも、企業の時価総額成長にきわめて重要な好影響をもたらすことが示されました。 実務に翻訳するなら、人脈の広さを追うより、業界の「結節点」となる人物を見極めて信頼を築くほうが、必要な経営資源を圧倒的に得やすくなります。まずは自身の業界で「あの人に聞けば、最適な誰かにつながる」という結節点が誰なのかを見極め、そこを起点にアプローチを考えるのが近道です。

次に「開き方」です。
居心地のよい同質な集まりは安心ですが、新しい情報は外部から入ります。研究でも、閉鎖的な関係より、外部への「構造的空隙(すきま)」が多い開放的なつながりを持つ企業ほど有意に成長することが実証されました。これを日常のアクションに落とし込むなら、参加する集まりを「いつもの顔ぶれ(閉じられた場)」と「異なる背景の人と出会う場(開かれた場)」に仕分けることです。後者がゼロなら、人脈は閉じているサイン。まずは自分の人脈の現在地を「地図」として客観視してみましょう。これなら、今日からでもすぐに始められます。

さらに、この構図は社内組織や若手育成にも応用できます。成功した先輩が次世代へ経験や助言を還流させる『起業家リサイクリング』の仕組みは、社内の組織開発や人材育成のあり方にも応用できるヒントに満ちています 。事業を離れた元責任者に新しい挑戦のメンターを頼む、他部署へ移った先輩と定期的に話せる場を残すといった小さな工夫で、世代間の循環を起こせます。自社に経験や知恵を還流させる回路があるか、一度問うてみる価値があります。

人脈は増やすものではなく、設計するもの。866社のデータが示したこの視点は、明日の付き合い方を選び直すきっかけになりそうです。

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