同じアクセラレーターでも、どの期かで資金調達額が変わった

同じアクセラレーターでも、どの期かで資金調達額が変わった

成果を分けたのは、機関の看板ではなかった

スタートアップ育成プログラムの成果は「どの機関に入るか」で決まる——長くそう考えられてきました。ところが、同じ機関でも「どの期に入ったか」で成果が変わってくるようなのです。ワインに”当たり年”があるように。

ビールの品質は醸造所で決まりますが、ワインは同じワイナリーでも年(ヴィンテージ)によって出来が変わります。アクセラレーターはどちらに近いのか。論文での分析の答えは「ワイナリー寄り」でした。その後の資金調達額のばらつきのうち、同じ機関の中の期(コホート)ごとの違いが最大7.5%を説明し、どの機関を出たかの違い(2.6〜3.6%)を上回ったのです。

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この分析を行ったのが、イスラエルのオノ・アカデミック・カレッジのギル・アヴニメレック先生らの研究チームによる論文「Are accelerators akin to breweries or wineries? A Bayesian variance decomposition of accelerator and cohort effects」です。アクセラレーターとは、数ヶ月の期限付きで一期十社前後の集団を受け入れ、指導や人脈を(多くは株式と引き換えに)提供するスタートアップ支援プログラムです。研究チームは、”スタートアップ大国”イスラエルの24機関を修了した1,350社について、参加開始から12ヶ月(および3年)の資金調達額を集め、成果のばらつきが「機関」「運営マネジャー」「期」のどの違いでどれだけ説明できるかを分解する統計手法で調べました。

担当者の効果はさらに大きいものでした。プログラムを運営する個人、つまりマネジャーの違いが最大7.7%と、これも機関の違いより大きかったのです。機関の看板やカリキュラムの設計以上に、誰が運営し、誰と同じ期を過ごすかが成果と結びついていました。

なぜ期で差が出るのでしょうか。著者らは、機関側が設計する「トップダウン」の仕組み(カリキュラム、メンター、人脈)に対し、参加者同士の相互作用から生まれる「ボトムアップ」の力学に注目します。同期から学び、互いに比べられ、刺激し合い、卒業後も続く共同体になる。同じ教材と講師でも活気づくクラスとそうでないクラスがあるように、一部の期だけが熱量の高いコミュニティに変わるのです。

ただし、この分散分解という手法は各要因の影響の大きさを測るもので、因果の中身までは特定しません。どんな期が良い共同体に化けるのかの解明は今後の研究課題とされており、対象がイスラエルのテック系スタートアップに限られる点にも留意が必要です。

同じ研修なのに、なぜあの期だけ伸びるのか

まず応用したいのは、企業内の研修や選抜プログラムです。毎年同じ教材で回しているのに、やけに結束が強く、修了後も連絡を取り合う期がある。あの違いは偶然ではないかもしれません。成果を左右するのはカリキュラムの設計だけではなく、「誰と同じ期になるか」というコホートの力学です。プログラムを見直すとき、教材や講師の改善に加えて、期の編成、顔ぶれの組み合わせ、相互に学び合い競い合う仕掛け、修了後もつながる仕組みに投資する価値があります。班分けを名簿順で決めていないか、修了後にチャットの場を残しているか。運営側は進捗指標だけでなく「この期は共同体になっているか」という熱量を観察することです。実際、論文も実務家への示唆として、期の力学は成果の無視できない割合を占めるのだから注視すべきだと述べています。

スタートアップや、アクセラレーターと組むオープンイノベーション担当にも示唆があります。プログラムを選ぶ際、機関の知名度だけでなく、担当マネジャーが誰か、その期にどんな顔ぶれが集まりそうかまで見る。機関名は同じでも、乗り込む”船”は期ごとに別物だからです。

もう一歩広げれば、成果の帰属を疑う視点にもつながります。「あの部門は強い」「あの子会社は優秀」と組織単位で語られる成功の中には、特定の時期の特定のチームに宿った力学が含まれているかもしれません。当たり年を偶然で終わらせず、その期に何が起きていたかを観察することが再現への第一歩になります。

育てる場所より、育つ場の力学。研修も、採用同期も、新規事業チームも、人が育つ仕組みをつくる側にとって、手を入れるべき場所を教えてくれる研究です。

記事原案 M.Sumida

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