組織の枠を超えるチームが事業を成功に導くメカニズム
異なるバックグラウンドを持つメンバーが集まり(越境チーム)、新しい事業を創造する試みでは、専門性や利害が異なるメンバー間におけるチーム運営の難しさに頭を悩ませるリーダーは少なくありません。そこで今回は、こうした壁を乗り越えて、建設的に実務を動かすためのアプローチをご紹介します。
グロービス経営大学院の松井孝憲先生と法政大学の石山恒貴先生による論文、『事業創造における越境チームの協働形成メカニズム―Eisenhardt メソッドによる「日本郵政・ローカル共創イニシアティブ」の複数事例研究―』は、越境チームが壁を乗り越えて協力し合うプロセスを解明した研究です。
これまでに、越境チームが意見や知識の壁を乗り越える方法として、互いの違いをすりあわせるトラバースと、大まかなイメージを共有して前進するトランスセンドの2つが知られていました。しかし、手探りのアイデア出しと効率的なタスク実行の双方が求められる新規事業において、この2つをどう組み合わせれば効果的なのかは分かっていませんでした。
そこで本研究では、日本郵政グループの「ローカル共創イニシアティブ」における7つのプロジェクトを調査対象としました。社員がベンチャー企業に出向して協働する事例を対象に、複数事例研究法(Eisenhardtメソッド)を用いて比較分析しています。2年間で事業立ち上げに至った3事例を高パフォーマンス、至らなかった4事例を低パフォーマンスとし、プロセスの違いを検証しました。
2つのアプローチの特徴と成功・失敗のメカニズム
研究の鍵となる2つのアプローチは、組織ごとの目線や利害にどう向き合うかという点で対照的な特徴を持っています。
まず、活動の前半で重要となるトランスセンドとは、お互いの細かい違いや立場の違いには踏み込まず、具体的なサービス案や事業コンセプトといった全員が乗っかれる緩やかな活動イメージを共に作り出す方法です。
これに対してトラバースとは、活動が進む中で浮き彫りになるお互いの価値観や組織としての利害の違いを徹底的に議論し、役割分担やルールを調整し合うすり合わせ型の方法です。たとえば、大企業の公平性を重視する姿勢と、ベンチャー企業の現場主義との違いなどを調整する際に力を発揮します。
分析の結果、成功した事例では、この2つの使い方の順序が共通していました。
活動の前半では、具体的な事業プランを話し合いながらトランスセンドを先行させ、全員が納得できる活動イメージを構築していました。そして活動の後半、組織同士の利害や目線の違いが浮き彫りになった段階で、前半で作った活動イメージを頼りにして、具体的な役割を分担するトラバースへと円滑に移行したのです。越境チームでは、組織のスタンスは違っても、この事業を成功させるために、ドライかつ建設的に役割を割り切ることができていました。
一方、失敗した事例では、この移行がうまくいっていませんでした。具体的な事業プランがないまま、自分のやり方や組織のスタンスを突き通そうとした結果、相手へのあるべき論をぶつけ合い感情的に衝突していました。また、目的意識がズレたまま仕事を丸投げして関係が冷え切ってしまったりするケースも確認されました。
新規のプロジェクトを円滑に運営し、成功させるポイント
この活動イメージを築いてから違いを冷静に調整するプロセスは、新規事業を成功に導く上で非常に役に立ちます。具体的には以下の2点がポイントです。
1. 初期の目線合わせを徹底する
難易度の高い新規事業では、最初から目的意識が一致していることは稀です。キックオフ時や活動が停滞したタイミングで、この事業を通じて何を達成したいのか、自部門にどんなメリットを期待しているのかの本音を出し合い、相互の目的意識を明確に合致させる機会を設けるべきです。
2. 空中分解を防ぐ議論の叩き台を素早く作る
考え方や価値観、利害の違いは具体的に動き出すと必ず顕在化します。このとき、共通の拠り所がないと感情的な衝突に発展しかねません。リーダーは、完璧でなくても構わないので暫定的なサービス案やプロトコルといった具体的な叩き台を早期に提示し、メンバーが意見を交わせる共通の足場を意図的に作り出すことが、冷静なタスク調整を可能にする鍵となります。
多様な強みを持つメンバーが揃っていても、プロセスの順序を誤るとチームは機能不全に陥ります。このメカニズムを意識し、まずは強固な共通の足場を築くことから始めて、不確実性の高い新規事業を軌道に乗せましょう。
(背番号22)
