IT投資が増えても、行政コストは下がっていない 日本の行政報告データ分析

IT投資が増えても、行政コストは下がっていない 日本の行政報告データ分析

期待とは逆を向いた、551市の決算

住民票をコンビニで受け取れる市が増えました。窓口の行列は短くなり、職員が書類を出す手間も減ったはずです。では、その分だけ市の費用は減ったのでしょうか。日本の551市の決算を調べた研究が、この問いに答えています。

日本大学の石川恵子先生らは、論文「地方自治体におけるIT費用・資産が行政コストに与える影響」で、IT費用とソフトウェアが行政コストを下げているかを検証しました。

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対象は日本全国の市で、政令指定都市と特別区は除いています。財務書類に欠けのある団体と極端な値を外し、551市が分析対象になりました。2017年度のIT費用とソフトウェアを、同じ年度と翌2018年度の行政コストに突き合わせています。ITの効果が出るには時間がかかるという先行研究に合わせ、1年後まで追ったかたちです。

市が住民一人に使っている行政コストは、2017年度・2018年度とも平均で21万8千円。これに対してIT費用は3,753円で、行政コストの1.5%程度です。資産に計上されているソフトウェアは、さらに少ない1,449円でした。

期待されていたのは、この金額が増えるほど行政コストは下がるという関係です。オンライン化やAI、RPAで業務を効率化し、将来の費用を減らす。国の計画が掲げてきた筋書きでした。そもそもソフトウェアを資産に計上できるのは、それを使うことで将来の費用削減が確実だと認められる場合に限られます。

ふたを開けると、係数は逆を向いていました。ソフトウェアの係数は2017年度も2018年度もプラスで、5%水準で有意。IT費用の係数もプラスで、2017年度は統計的に有意ではなく、2018年度は10%水準でした。ソフトウェアが100%増えると行政コストは1%前後増える計算です。平均1,449円のソフトウェアが倍になれば、将来の行政コストは2,200円ほど増えます。

費目を分けても同じでした。人件費にはソフトウェアが、物件費にはIT費用がプラスに効いています。IT担当職員の多い市と少ない市に分けても、削減効果は見当たりません。

石川先生らは、地方公務員の身分が保障されているためIT化が進んでも職員数がすぐには減らないこと、ITが成果を生むには時間がかかることを理由に挙げています。これらは結果からの解釈で、測定された事実ではありません。なお、この分析が追えているのは翌2018年度までです。さらに先はどうなるか、今後のデータを待つ必要があると著者ら自身が課題に挙げています。

入れた効果は、どこで確かめるのか

システムを入れた翌年、経費は本当に下がったでしょうか。この分析をヒントに、社内の稟議書へ置き換えて考えてみましょう。

稟議書には、たいてい削減効果が書かれています。たとえば年1,200時間、人に直せば0.7人分。計算自体は正しいことが多い。けれど浮いた時間が費用として消えるには、その人が別の仕事に移るか、人数が減るかしなければなりません。自治体でそれが起きにくかったのは、身分が保障されているからでした。会社でも、行き先を決めない時間は、いつのまにか別の作業で埋まります。経理の月次締めが二日早く終わったとして、空いた二日で何をするのか。新しい分析に充てるのか、残業を減らすのか、派遣契約を見直すのか。削減効果の欄の隣に、その行き先を書く欄をつくる。どれを選ぶかで一年後の数字は変わります。

費用の出方も見ておきます。買ったソフトウェアは資産に計上され、減価償却費として毎年の費用に載ります。保守料やクラウド利用料は稼働した月から発生します。支出のほうは先に、確実に増える。下がるはずの費目と、確実に上がる費目を並べて初めて差し引きが見えます。稟議のときに、いつ、どの費目がいくら下がるはずかを一行でも書いておく。書いていなければ、一年後に検証のしようがありません。

最後に、報告の仕方です。使い勝手がよくなったという評価と、経費が下がったという事実は、別々に確かめるしかありません。前者は担当者への聞き取りで、後者は費目の推移で確かめる。混ぜて報告した瞬間に、見る目は鈍ります。

便利になったことと、安くなったことは、分けて確かめないと混ざります。551市の決算が示したのは、その二つが自動的にはつながらないという事実です。

記事原案 東莉子

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