デジタル格差解消への鍵は「協同組合」 民間企業を補う米国のキープレーヤーとは

デジタル格差解消への鍵は「協同組合」 民間企業を補う米国のキープレーヤーとは

儲からない市場を救う、協同組合の力

今の時代、高速インターネットは不可欠ですが、米国では深刻なデジタル格差が顕在化しています。特にインフラを整えるコストにお金がかかる農村部や低所得者が多い地域では、収益性の低さから投資家が所有する営利企業が参入を控えるか、低品質なサービス提供に留まる傾向があります。

Tulane UniversityのHyoju Jeong先生チームは、論文「Comparative governance of for-profit provision of public services: Investor-owned firms versus cooperatives as internet providers」(営利企業による公共サービス提供の比較ガバナンス:インターネットプロバイダーとしての投資家所有企業と協同組合の比較 )で、米国の通信市場データを分析し、営利企業と協同組合の比較から、農村地域や貧困地域など一般企業が参入したがらない地域では、協同組合がインフラの空白を埋める役割を果たしていることを発見しました。

緻密なデータが明かす協同組合の強みと弱み

本研究では、2014年から2017年までの米国連邦通信委員会(FCC)のデータを用い、国勢調査区という細かな地域単位でインターネット提供の状況を追跡しました。プロバイダーの属性と提供技術の質を組み合わせ、さらに特定の営利目的企業に向けた政府補助金を操作変数とする高度な統計的手法による分析を実施し、組織形態とサービス品質の因果関係を検証しました。
その結果、営利目的企業による質の高いサービスが提供されていない地域ほど、協同組合が進出し、高品質な通信網を広くカバーしているという結果が得られました。協同組合は特に農村部や低所得地域において、一般のインフラ提供企業が十分に提供していないサービスをカバーする役割を果たしているのです。

ただし、協同組合にも弱点があります。人種や民族が多様なコミュニティや、メンバーのニーズが多岐にわたる状況では、合意形成や組織内の調整にかかるコストが跳ね上がることも明らかになりました。
さらに、組織的な成り立ちの相違も、調整コストを増大させ、協同組合が本来持つ優位性を損なう要因となります。例えば、電力や電話事業といった既存の公共サービスを担ってきた組合が多角化の一環で通信分野へ参入する場合、当初からインターネット事業に特化して設立された組織と比較して、既存事業との調整に多大なリソースを割かざるを得ません。その結果、民間企業が参入していない市場の空白地帯を補完する力が、相対的に低下してしまいます。

Reader Reports

この記事を読んだ読者レポート

この記事で読者レポートを投稿

まだ読者レポートはありません。読んで考えたこと、試してわかったこと、活かし方を最初のレポートとして投稿できます。

過疎地に高品質なサービスを生み出すメカニズム

この研究では、米国のインターネットプロバイダーを対象に一般的な営利企業と協同組合を比較し、利益が出にくい市場でも協同組合が優れたサービスを実現できる理由を解明しました。その鍵となるのが以下の2点です。

運営者だからこそ、見えない価値を評価できる
協同組合の強みは、地域住民が主体であるということです。地域住民はサービスによって地域が良くなること自体が自分たちのメリットに直結します。ですから、たとえ目先の利益が少なかったとしても、地域全体のために高品質なサービスに投資する動機付けを持ちます。

現場との情報のズレがなく、手抜きが起きない
政府から補助金を受けた企業は、利益最大化のためにこっそりとサービスの質を下げることがあるかもしれません。しかし、地域住民が参画する協同組合は地元の本当のニーズを誰よりも熟知しています。そのため、政府と現場との間に情報のズレが生じず、自分たち自身のメリットを最大化するため、意図的な手抜きもしないでしょう。

日本の地方創生ビジネスへのヒント

少子高齢化や人口減少に直面し、地方市場の縮小が進む日本においても、この研究が示す協同組合の組織的な強みは極めて実用的です。地域課題の解決に向けた事業を設計する際、外部の企業に頼るだけでなく、サービスを利用する当事者をパートナーとして運営に巻き込む仕組みを取り入れることが、今後の地方創生において非常に有効なアプローチとなるでしょう。

記事原案 新谷志津乃

コメントを残す