異業種3社の共創成功の理由は、お互いの深い資源の探り合い 国内スマートシティ事業の事例

異業種3社の共創成功の理由は、お互いの深い資源の探り合い 国内スマートシティ事業の事例

明確な目標が、探し合う理由を奪っていた

プロジェクトを始めるとき、まず目標を決め、次に役割分担を決めます。誰が何を担うかを曖昧にしたまま走り出すのは、無責任に見える。ところが、その手順自体が共創を止めていたかもしれません。

日本大学の所伸之先生は、論文「脱炭素社会への移行に向けて経営学の果たす役割 ―「共創」による価値創造プロセスの探求 ―」で、脱炭素を、化石燃料に頼ってきた社会の仕組みを根本から組み替える試みと捉えています。その転換は一つの企業や行政だけでは担えず、行政・企業・市民など異なる主体の共創が欠かせない。そう考えて、異なる組織が知恵を持ち寄る過程を追っています。

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調べたのは、パナソニックが神奈川県藤沢市の工場跡地に建てたスマートシティです。広さは約19ヘクタール、1,000世帯3,000人が暮らします。総事業費はおよそ600億円、2011年に動き出しました。参加するのは東京ガスや三井不動産などの異業種企業、藤沢市役所、慶応大学、住民の自治組織です。調査は2014年から2019年にかけて3回、パナソニックの担当者への聞き取りで行われました。

目を引くのは、パナソニック、三井不動産レジデンシャル、東京ガスの3社です。「スマートハウスに新たな付加価値を付与する」というテーマで、3社ともその経験がなく、前提なしに対話を重ねました。その中で、働き盛りの30歳から50歳は疲れていて、家に心身のバランスを整える空間を求める、という調査結果を東京ガスが持っているとわかります。ここから「住めば自ずと美しくなれる家」というコンセプトが生まれます。

対話を始めた当初、他の2社にとって東京ガスはインフラ会社でしかなく、家について重要な知見を持つとは思っていなかったといいます。ところがコンセプトを導く過程では東京ガスが主導し、3社の関係が変わりました。

この過程は、7段階の仮説モデルとして整理されています。出発点は「探索」。互いに相手がどういう存在かを探り合う行為です。そこから資源が響き合い、混ざり合い、新しい価値が形になるまでを描いたモデルです。比較されるのが、政府の「環境未来都市」プロジェクトです。調査対象となった富山市と北九州市は、行政・企業・市民の共創をスローガンに掲げていました。ところが調査でわかったのは、3者の共創の実態がほとんどないことです。協議会はあるものの、話されるのは進捗報告と役割分担の確認でした。

二つを分けたのは、関係性の明示・非明示でした。パナソニックの案件は目標が漠然としており、3社の役割分担も不明瞭でした。だからこそ、互いを深く知ろうとする対話が起きた。環境未来都市では目標も役割も明確で、相手を探索する必要がなかった。明示的な関係性は探索欲求を阻害する、というのが所先生の見方です。

ただし、これは少数の事例から導かれた仮説モデルで、現時点では特殊解の域を出ないと所先生自身が述べています。

担当を決めた瞬間、探す理由が消える

役割分担表をつくるのは、たいてい打ち合わせの最初です。誰が何を担うかが決まると、場は落ち着く。けれど論文では、その落ち着きが訪れなかった側でこそ深い対話が起きていました。他部署や他社と組む場面に置き直すと、表を書く手が少し止まります。

キックオフで「うちは設計を」「では販路はこちらで」と宣言し合った瞬間、相手の引き出しを見に行く理由は消えます。担当が決まっていれば、相手が何を持っていようと関係がない。探索は、そこで終わります。

ここからは、研究結果をヒントに考えてみた進め方です。論文が確かめたのは、その手前までです。

決めるものと、決めないものを分けます。決めるのは二つ。いつまでに何を出すかという期限と、目指す方向です。決めないのは一つ。誰が何を持ち寄るかです。ここを最初に埋めてしまうと、探す時間がなくなります。

空欄を埋める前に、相手の手持ちを聞く時間をとります。このとき「何ができますか」と聞けば、相手は看板どおりの答えを返します。「これまで何を調べましたか」「どんな失敗をしましたか」と過去を尋ねたほうが、引き出しは開きます。ガス会社が生活者調査を持っていた、というようなことは、そうやって出てきます。

決めきらない状態は落ち着かないものです。だからこそ、いつまで続けるかだけは先に決めます。二か月後の会議で分担を固める。そう決めてしまえば、それまでは探すことに使えます。

決めることは前に進めることですが、決めきることは探すのをやめることでもあります。相手の引き出しを開ける時間を、予定表のどこに置くか。共創はそこから始まります。

記事原案 藤本ゆう子

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