起業家は提携先を条件で探し、先方の態度でふるいにかける 京都大学調査

起業家は提携先を条件で探し、先方の態度でふるいにかける 京都大学調査

補完性と著名性の次に問われた、熱意と対等さ

ある起業家が、大企業の窓口の担当者と話を進めたあと、事業部の社員も交えて協議に臨みました。事業部から来た社員は偉そうな態度で、文面も下請けに向けるような書き方でした。すると担当者が目の前で「下請けみたいな書き方をするんじゃない」と同僚を叱り、起業家には、すぐに書き直させますと謝ったといいます。その会社とは、いまも良い関係が続いているそうです。

京都大学の羽田祥子先生と椙山女学園大学の椙山泰生先生は、論文「自尊感情と類似性による共感 ―スタートアップが提携先企業を選択する基準に関する質的研究―」で、起業家がどんな基準で提携相手を選んでいるのかを調べました。

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対象は、IT、AI、バイオ医薬、製造、サービスなど41社の起業家や経営陣50人です。2018年10月から翌年10月にかけて、1回60分から120分の聞き取りを重ね、どの会社となぜ組んだのかを語ってもらいました。語られた言葉を分類して概念にまとめる手法で分析しています。

提携相手を選ぶ基準として、既存の研究が代表的に挙げてきたのは二つです。自社にない技術や資源を持っているかという補完性と、組むことで信用が増すかという著名性です。今回の聞き取りでも、この二つは確かに語られました。

ただ、起業家たちは、この二つだけで提携相手を決めていたわけではありませんでした。浮かび上がったのが、相手の態度に対する起業家の感情です。一つは自尊感情と呼ばれるもので、担当者や上層部に本気で組みたいという熱意があるか、見下さずに対等に向き合ってくれるか。もう一つは、相手に自分たちと似た志向を感じるかどうか。世界にないものをつくりたいという理念、先端領域への理解、変わらなければという危機感です。

両先生はこれを二段階の流れとして整理しています。まず補完性や著名性で候補を探す。そのあと、熱意や対等さ、志向の近さでふるいにかけ、組むかどうかを決める。同じ業種の大企業2社と交渉した起業家は、補完性でも著名性でも甲乙つけがたい2社のうち、熱意を感じなかった一方との関係を終えていました。

起業家は自分の会社と自分自身を重ねて見ている、というのが両先生の説明です。相手から敬意を向けられると自己への肯定感が高まり、相手を好ましく受け止める。これは既存の心理学の知見を当てはめた解釈です。

ただし、スタートアップへの投資が活発で、選ぶ側に余裕があった時期の日本での聞き取りです。技術の応用の幅が狭いバイオ医薬では、感情に関する語りはあまり聞かれなかったといいます。提携相手の大企業側には調査していない点も、限界に挙げられています。

選ばれる理由は、条件の先にもある

本研究はスタートアップの側に立って提携を分析したものですが、協業を持ちかける大企業の側にこそ響く内容です。こちらが相手を選んでいるつもりでも、相手もこちらを見ている。条件は候補に残るための前提で、その先のふるいになっていたのが態度でした。

条件が良いから選ばれる、とは限りません。事業部の社員の見下した態度を、窓口の担当者がその場で正したことで信頼を得た会社もありました。既存企業から見下される経験を日常的にしている起業家が多い、と論文は指摘しています。だからこそ、ふつうに敬意を払うことが差になります。

見直せる点は、窓口の外にありそうです。論文によれば、スタートアップとの接点が少ない事業部では、無自覚に下請けと同じように接してしまうことがある。知的財産を大企業側に帰属させる下請け型の契約書を渡されたことも、起業家の不満に挙がっていました。自社の契約書のひな形がそうなっていないか、一度確かめておきたいところです。打ち合わせに新しい部署を呼ぶ前に、相手がどんな会社でなぜ組むのかを一言共有しておくだけでも、席の空気は変わるはずです。

起業家は、相手企業全体の理解や熱意を、「メール一通、電話一通」のやりとりの印象からも感じ取っていました。そう考えると、たとえば返信の早さや、社内の決裁にかかる時間を最初に伝えておくことも、熱意の伝わり方を左右しそうです。返事が遅れる理由がわかっていれば、放置されていると受け取られることも減るはずです。

提携の条件は、候補に残るための入口にすぎませんでした。その先で選ばれるかどうかは、席についた人たちの態度にも左右されます。組みたい相手がいるなら、まずこちらの振る舞いを見直すところからです。

記事原案 本多佳子

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