部署内外で変わる「有効な人脈」構造
知識共有を阻む「部門の壁」をどう越えるか。最新の研究から、部署内外の場合で有効な人脈構造が異なることが判明しました。組織の知の巡りを劇的に改善し、成果を最大化する戦略的なネットワーク設計の秘訣を解説します。
関東学院大学の真保 智行先生と青山学院大学の中内 基博先生による論文「知識提供者のネットワークと部門間知識移転」は、組織内の知識共有を阻む部門の壁をいかに乗り越えるかという課題に対し、知識を提供する側の人間関係(ネットワーク)に着眼して鮮やかな解答を提示しています。
R&D活動における革新とは既存知識の新しい組み合わせですが、企業は往々にして使い慣れた知識に頼るローカルサーチに陥りがちです。この停滞を打破する解決策を見出すために、著者らは大手音響エレクトロニクスメーカーの発明者397名を対象に、8年間にわたる特許データと所属部署データを精緻に分析しました 。分析の結果明らかになったのは、知識が部署内を流れるのか、それとも部署の壁を越えるのかによって、有効な人脈の形が異なってくるという事実です。
まず、同じ部署内での知識共有においては、互いに交流のないグループ間を繋ぐ「情報の溝(構造的空隙)」を埋める橋渡し役が、重要な役割を果たします。部署内では似たような情報が重なりがちですが、グループ間の壁を越えて多様な知識を繋ぎ合わせられる人物の知見は、周囲がすでに持っている知識とは重ならない、新鮮で独自の価値がある情報であると評価され、活用が促進されるためです。
一方で、部署内において知識提供者の人脈があまりに広すぎると、その知識は「どこかで聞いたことがある、目新しさに欠けるもの」と見なされるようになり、活用の広がりが一定ラインで頭打ちになる傾向が確認されました。
これに対し、他部署への知識移転においては状況が異なります。部門の壁を越える際には、提供者が持つ社内ネットワークの広さが成否を分ける決定的な要素となります。
他部署の人間にとって有益な情報の所在を特定するのは容易ではありませんが、社内で多くの人と繋がっている人物の知識は、アクセスのしやすさや信頼の証となり、組織全体へと波及していくためです。
この結論は、組織マネジメントに重要な示唆を与えています。企業が特定の優れた技術を全社に広めたいと考えるなら、その知識を持つ専門家を大規模なプロジェクトや部署横断チームに投入し、意図的に「社内での顔の広さやつながりの深さ」を高めることが、最も効果的な戦略となるでしょう。
明日からできる知識移転術 部門の壁を越える人脈設計
本論文を実務に活かすため、ビジネスパーソンが明日から実践できる具体的なアクションを提案します。
- 部署内では橋渡し役の知見を優先的に拾い上げる
部署内は知識が似通いやすいため、解決策を既存知識の近くで探すローカルサーチに陥りがちです。これを打破するには、あえて異なる小グループ間を繋いでいる「橋渡し役」に注目してください。彼らの持つ知識が、部署内の既存知識と組み合わさることで、真に新しい価値を生み出す源泉となります - 部署の壁を越えさせるなら、専門家を社内のスターにする
他部署に優れた技術を広めたい場合、単に情報を公開するだけでは不十分です。他部署の人間は誰が有益な情報を持っているかを、その人の顔の広さ(中心性)をシグナルとして判断するためです。優れた技術を持つが人脈が限定的な専門家には、大規模な全社プロジェクトや部署横断チームに参加させ、意図的に社内での知名度を高める機会を与えましょう。 - 知識の定着と刷新で人選を使い分ける
知識を組織に定着させたいなら、部署内の中心人物を活用するのが効率的です。一方で、組織を刷新するような新しい知識は、部署内であっても、異なるグループを繋ぐ「橋渡し役」から積極的に取り入れましょう 。
知識共有を個人のわざに委ねるのではなく、人脈というネットワーク構造を戦略的にデザインすることで、組織の知の巡りは劇的に改善します。
あなたの組織で、今もっとも顔を広めるべき専門家は誰でしょうか。その第一歩として、彼らを次の全社プロジェクトのメンバーに推薦することから始めてみませんか。
