社内の声だけでは事業は変わらない ドイツ254社の調査

社内の声だけでは事業は変わらない ドイツ254社の調査

社内の助言は、それだけでは変化につながらなかった

新しい事業の形を考えるとき、まず社内の知恵を集める。営業や製造、開発の部門長に意見を聞いて回り、現場の声も拾う。多くの管理職は、そうした進め方に慣れているはずです。ところが、社内に助言を求める力だけでは、事業の仕組みを変えることにつながっていませんでした。ドイツの中堅製造業を調べた研究の結果です。

マールブルク大学のマリアンネ・ホック=デップゲン先生らは、論文「Identifying microfoundations of dynamic managerial capabilities for business model innovation」で、経営幹部が助言を求める力と、事業の仕組みの変化との関係を調べました。

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対象は、化学や自動車など研究開発型の製造業で、従業員50〜2,999人、創業10年以上のドイツの中堅企業です。調査は2021年秋から2022年春にかけて電話で行われ、254社の経営幹部が回答しました。

調査では、助言を求める力を、社内の経営陣や部門長、従業員から知識を得る力と、社外から得る力に分けて尋ねています。社外には、元同僚や友人など個人的な付き合いのある人と、コンサルティング会社や顧客、仕入先など個人的な付き合いのない相手の両方を含みます。事業の仕組みの変化は、過去5年で顧客への提供価値や収益の上げ方、主な資源、業務の流れをどれだけ大きく変えたかで測りました。

分析の結果、社外に助言を求める力は、事業の仕組みの変化と直接結びついていました。ただし、その結びつきは弱いものでした。一方、社内に助言を求める力には、直接の結びつきが見られませんでした。

社内の助言は、別の道筋を通じて効いていました。会社そのものが新しい情報を取り込んで動く力です。この力は「調整の柔軟性」と呼ばれ、市場や競合の情報を集める、外の知識を素早く取り込む、新しい技術を製品や工程に生かすといった点で測られています。社内の助言はこの力を高め、この力が高い会社ほど事業の仕組みを大きく変えていました。社外の助言も、一部はこの力を通じて効いていました。

先生らは、社内の助言が直接効かなかった理由として、社内の意見は会社の従来の考え方に沿いやすいこと、部下は経営者に異を唱えにくく、同調やへつらいも起きやすいこと、昇進を争う者同士が互いの案を支えにくいことを挙げています。

ただし、データは一時点の自己申告で、因果関係まで示したものではありません。各効果の大きさも、中程度から小さいものでした。

聞いた話を、形にできる職場にしておく

新しい事業の案を求められる立場にある管理職は多いでしょう。この研究は、案が形にならない原因が、誰に聞くかだけでなく、聞いた話を受け止める組織の側にもありうることを示しています。以下は、論文の結果から考えられる工夫です。

まず、相談相手を社内に閉じないことです。事業の変化と直接結びついていたのは、社外に助言を求める力のほうでした。取引先や顧客、以前の同僚など、立場の違う相手の見方は、社内の常識を問い直す材料になります。

次に、社内で意見を聞くなら、異論を言いやすい場にすることです。部下が上司の考えに合わせた答えを返しているなら、何人に聞いても新しい案は出てきません。会議で上位者が最初に意見を言わない、反対の立場をあえて誰かに担ってもらうといった工夫が考えられます。

そして、聞いた話を試せる職場にしておくことです。社内の助言が効いていたのも、会社が新しい情報を取り込んで動く力を通じてでした。提案を受けても予算や担当が決まらずに止まってしまうなら、助言を集める努力は実りにくいはずです。小さく試す枠を用意しておけば、集めた知恵が生きる余地が広がります。

社内の情報のやりとりをデジタルで支えることも、手がかりの一つです。論文では、社内のデジタル化が進んだ会社ほど、社内の助言が会社の動く力を高める関係がやや強く表れていました。効果は小さいものの、部門をまたいで提案や資料を共有できる仕組みは、社内の知恵を行動に移すまでの距離を縮めてくれるかもしれません。

意見を聞くことは、変化の出発点にすぎません。社内の声を事業の変化につなげるには、聞いた話を受け止めて動ける組織が要る。この研究の結果は、そのことを示しています。

記事原案 M.Sumida

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