旅行者にとって、ビーチ同士は簡単に代わりにならない
オアフ島のビーチを一つ失っても、島に残る他のビーチが埋め合わせにはならない。ワイキキビーチで398人に聞き取った研究が、そう結論づけています。
ハワイ大学マノア校のドーラン・エバーソール先生らは、論文「観光とビーチ ― 多層的な需要とその持続可能性 ―(Tourism and Beaches: Their Multilayered Demand and Sustainability)」で、オアフ島の観光にとってビーチが持つ価値を推計しました。
調査は2019年11月から2020年1月、ワイキキビーチで行われました。浜にいた人に、出発地、交通手段、宿泊先、滞在日数、島やビーチを訪れた回数、収入などを尋ねました。398人の聞き取りから旅行情報のない人などを除き、分析対象は観光客307人とオアフ島の住民82人です。
用いたのはトラベルコスト法です。その場所へ行くために払った交通費や宿泊費に、移動時間を賃金で金額に直したものを足し、費用が高い人ほど訪問回数がどう減るかから、感じている価値を逆算します。
推計されたのは、オアフ島への旅行1回あたり一人3,400〜5,480ドル。払った費用を超えて得ている価値です。訪れる人全体では、210億〜340億ドルに相当します。しかも、滞在中にビーチへ行く回数が多い人ほど、この値は大きくなっていました。
ワイキキに来た人たちは、島内の他のビーチにも足を運んでいます。そのうえで冒頭の結果です。あるビーチへ行く費用が上がったとき、別のビーチへの訪問が増えるかを調べると、観光客では係数の多くがゼロか、むしろマイナスでした。ワイキキが遠くなったからアラモアナへ、とはならない。ところがオアフ島の住民では、多くの係数がプラスで有意でした。住んでいる人にとってビーチは互いに代わりになるのに、旅行者にとってはそう簡単にはいきません。
エバーソール先生らは、それぞれのビーチの独自性か、旅行者が他のビーチをよく知らないこと、あるいはその両方が理由ではないかと述べています。測定されたのは代替が起きにくいという関係までで、理由のほうは解釈です。
もう一つ、リピーターの行動も目を引きます。2回目、3回目に訪れた人は、ビーチへ行く回数が減るどころか多くなっていました。ただしこれは相関であって、因果を示すものではないと著者ら自身が断っています。
なお調査は、ワイキキビーチに居合わせた人への聞き取りです。ビーチに行かない住民やワイキキ以外を好む住民は含まれず、住民全体を代表する結果ではないと明記されています。
代わりになるのか、全体を支えているのか
この研究が静かに突きつけてくるのは、代替できるかどうかの判断が、内側にいる人と外から来る人で食い違うという点です。住民にとってビーチは互いに代わりになり、旅行者にとっては簡単に代わりにならなかった。論文が調べたのはビーチの話ですが、そこから考えられることを、店舗や商品、拠点を整理する会議に置き直してみます。すると、いつもの資料に並ぶ一行が急に気になってきます。
社内の資料には、たいてい代替の話が出てきます。この店を閉めても、隣の駅に店がある。この商品をやめても、上位機種で受けられる。そう書ける人は、両方を知っている人です。けれど顧客の多くは、片方しか知りません。知らない選択肢は、代わりにはなりません。
確かめ方は、社内の地図ではなく顧客の行動にあります。閉店予定店舗の利用者が、実際にもう一方の店舗も使っているのか。会員データでも、レジのアンケートでも構いません。両方を使っている人がほとんどいなければ、その人たちにとって代わりは存在しないことになります。もう一方の店舗に移ってくれるはずだ、という前提のほうを疑う番です。
この研究には、もう一つ考えさせられるところがあります。単体の数字だけで価値を測っていいのか、という点です。調査では、ビーチへ行く回数が多い人ほど、旅行そのものへの支払い意思が高くなっていました。ビーチ自体は無料でも、島全体の価値を押し上げている。売上の小さい売り場やサービスが、来店そのものを支えていることは珍しくありません。その貢献は、売り場の損益計算書には出てきません。畳んだあとで、全体が細っていることに気づく。
一つひとつを足したものが全体になる、とは限りません。互いに代わりになるのか、それとも全体を支えているのか。削る前に確かめるのは、その一点です。
記事原案 藤本ゆう子
