W杯で敵になった同僚、クラブに戻るとパスが約11%減  そこからのビジネスの学びとは?

W杯で敵になった同僚、クラブに戻るとパスが約11%減  そこからのビジネスの学びとは?

社外での対戦は、社内の協力に持ち込まれていた

社員が社外の組織に関わるのは、会社にとっても良いことだと考えられてきました。他社の社外取締役、業界の委員会、副業先。外で得た知見や人脈は、社内にも還ってきます。では、同じ職場の二人が、社外ではそれぞれ競い合う組織の側にいたらどうでしょうか。

ボッコーニ大学のトルステン・グロースジャン先生らは、論文「When colleagues compete outside the firm」で、この問いをデータで確かめました。

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米国の大企業500社で2000年から2020年に同じ経営陣にいた役員二人が、ともに他社の取締役を兼ねていた場合、その20%では兼務先どうしが同じ業界の競合でした。こうした組み合わせは、決して珍しいものではないのです。

ただ、社員どうしがどれだけ協力しているかは、会社の記録からはなかなか見えません。そこで分析の舞台になったのが、欧州5大リーグのサッカーです。誰が誰にパスを出したかが記録され、協力の度合いを数えられるからです。選手はクラブに雇われていますが、代表に選ばれれば国を背負って戦います。同じクラブの選手が、2018年のワールドカップで敵として当たることもある。バルセロナのメッシとラキティッチは、アルゼンチンとクロアチアに分かれて対戦しました。

比べたのは、W杯をはさむ2017-18年と2018-19年の二シーズンです。両シーズンとも同じクラブにいて、W杯で対戦した組み合わせ142組と、ともにW杯に出たものの代表どうしは当たらなかった842組。組み合わせは、パスの出し手と受け手の向きで数えています。どの国と当たるかは抽選で決まる部分が大きく、選手が選べるものではありません。どちらも代表選手で、W杯前のパスの推移にも差は見られませんでした。

その結果、W杯で対戦した組み合わせでは、翌シーズンのクラブでのパスが約11%減っていました。減り方が大きかったのは、代表への帰属意識が強いと考えられる選手です。国籍が一つだけの選手は、複数の国籍を持つ選手より減り方が大きくなりました。また、代表どうしが当たった試合でも、ピッチで実際に顔を合わせた組み合わせは、どちらかが出場しなかった組み合わせより減っていました。グロースジャン先生らは、社外の組織への帰属意識が強く、競争が激しいときに、同僚を仲間であると同時に敵としても見るようになると説明しています。

ただし、分析したのは若く競争心の強い男子プロ選手で、競い合った舞台も世界中が注目するW杯です。競争がそこまで激しくない場合や、役員が兼務先に抱く帰属意識が代表選手ほど強くない場合には、影響は小さいかもしれません。この点は研究の限界として挙げられています。

社外の肩書きは、組み合わせで見る

本研究はサッカー選手を扱っていますが、職場に置き換えても、思い当たる場面があるかもしれません。同じ部署の二人が、業界の委員会では別々の案を推す側に回る。二人の副業先が、同じ顧客を取り合っている。社外活動を一人ずつ届け出てもらうだけでは、こうした組み合わせは見えません。

論文は経営者に向けて、誰がどの組織に関わり、その組織どうしがどう関係しているかを把握しておくことを勧めています。届け出を個人ごとの許可で終わらせず、チームのなかで並べて眺めてみる。協力が欠かせないプロジェクトの顔ぶれを決めるとき、二人が社外で向き合う立場にないかを確かめておく。そうした使い方が考えられます。

影響の出方の差も参考になります。社外の組織への帰属意識が強い人ほど、また顔を合わせて競った人ほど、パスの減り方は大きくなりました。業界の会合に年数回出る程度の関わりと、副業先の立ち上げに深く関わる場合とでは、同じ届け出でも重みが違うはずです。

社外での関わりは止められないこともあります。論文では、社内の連絡ツールで政治的な立場を議論しないよう社員に求めたソフトウェア会社の例が紹介されています。社外の対立を職場の話題に持ち込まない工夫や、会社としての共通の目的をはっきりさせることも、対策として挙げられています。

社外での関わりは、知見や人脈とともに、対立も連れて帰ってくることがあります。それでも論文は、外とのつながりを減らすよう勧めてはいません。結びに置かれたのは「外では競い、内では協力を」という呼びかけです。つながりは保ったまま、対立は社内に持ち込ませない。その線を引くのは、職場を預かる側の役目です。

記事原案 M.Sumida

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