独立と近さ、両方は取れないという構造
速く動けるようにと切り離した組織が、いつのまにか現場から遠くなる。職場でよく見る光景です。 大学と企業をつなぐ現場を調べた研究が、どちらを取るべきかの分かれ目を示していました。
大学で生まれた技術を企業に渡す窓口を、TLO(技術移転機関)と呼びます。日本には2023年4月時点で32の承認TLOがあり、置かれ方は大きく3つに分かれます。大学の中に部署として持つ「内部型」。大学の外に別法人として置き、特定の1大学と組む「外部一体型」。同じく外部の法人が、複数の大学をまとめて担当する「外部広域型」です。東京大学とTODAI TLOの関係は外部一体型、TLO京都や東北テクノアーチは外部広域型にあたります。
どの置き方が成果につながるのか
経済産業研究所の池内健太先生らは、論文「TLOの組織構造が大学の技術移転パフォーマンスに与える影響:日本のサーベイデータを用いた実証分析」で、この問いを検証しました。使ったのは文部科学省の「大学等における産学連携等実施状況調査」で、機関ごとの詳細データが公表されている2018年度から2021年度までの4年分です。特許のライセンス収入を成果の指標に置き、ポアソン回帰という手法で分析しました。
分析の結果、外部型のTLOを使う大学は、ライセンス収入が統計的に有意に高いという結果でした。一方、内部型では有意な効果が確認できませんでした。大学の組織の中に窓口を置くだけでは、成果が上がるとまでは確認できなかったのです。ただし、内部型TLOを導入している大学のサンプルサイズは4年間の延べ数で49と少なく、差が出にくい面もあります。
理由として著者らが挙げるのは、独立性です。大学の内部規則や意思決定の手続きから離れていたほうが、柔軟に速く動ける。投資や訴訟のリスクを負うにも、自前の財務基盤が要ります。米国でも、大学の内部部署として置かれたTLOは、財務的に独立したTLOよりライセンス収入が低いという分析があります。ただし、独立させれば良いという話ではありませんでした。外部一体型を使うことによる収入の伸びは、研究者数の少ない大学ほど大きくなっていたのです。外部広域型は3つの中で最も独立性が高く、規模の経済も働きます。しかしネットワークの中心にある大学から離れるほど、研究者との距離が開く。技術の目利きも信頼も、日常的な接触から生まれます。小規模な大学では、近さが効いていました。
なお著者らは、独立性と近さを直接測ったわけではなく、組織の型を手がかりにしていると限界を述べています。成果指標をライセンス契約の件数に変えると規模の効果は逆向きに出ており、収入と件数は別の要因で増えるとも指摘しています。
切り離すときに、何を失うかを決めておく
論文が調査したのは大学の話でした。ここからはこの研究をヒントに、職場に置き換えて考えてみましょう。ふたつの視点が見えてきます。
一つ目は、切り離すときには必ず何かを失うということです。機能を別組織に出す判断は、たいてい「独立性」や「専門性」の側から語られます。意思決定が速くなる、専門人材を集めやすくなる。失う側はあまり語られません。この研究で失われていたのは、研究者と日常的に顔を合わせる機会でした。新規事業を別会社にする、開発機能を子会社に集約する、間接部門をシェアードサービスに移す。どれも同じ構造です。切り出す前に、いま何気なく交わされている会話のうち、どれが消えるのかを書き出してみる。廊下での立ち話、会議前後の雑談、隣の席から漏れ聞こえる進捗。制度に載っていないやりとりほど、切り離した瞬間に消えます。
二つ目は、最適な形が規模で変わるということです。同じ仕組みでも、大きな部門は恩恵を受け、小さな部門は後回しになります。共通機能に集約したとき、依頼件数の多い部署の案件は優先され、少ない部署は待たされる。この研究でも、中心にいる大学は独立性と規模の両方を享受でき、周辺の小規模大学は近さを失うだけでした。全社一律の仕組みを入れるときは、周辺に置かれる部門に何が起きるかを先に確かめる。中心にいる人の視点だけで設計すると、周辺の不利益は見えません。
独立させるほど動きは速くなり、そのぶん現場から遠ざかる。この二つは同時には最大化できません。どちらを優先するかは、組織の大きさと置かれた位置によって変わります。切り離してからでは戻せません。決める前に、その見極めをしておきたいところです。
