タレントマネジメントと戦略人事、2つの人事論はうまくリンクしていない 論文1,662編の調査より

タレントマネジメントと戦略人事、2つの人事論はうまくリンクしていない 論文1,662編の調査より

目指す先は同じ、語る言葉は別

人事の会議で「タレントマネジメント」という言葉を聞く機会が増えました。以前からある「戦略的人的資源管理」と、どう違うのか。学術論文1,662編のキーワードを数えた研究が、その答えを示しています。

1980年から2020年に刊行された英語論文から著者自身が付けたキーワードを抜き出すと、タレントマネジメントは616回、戦略的人的資源管理は368回。前者が後者のおよそ1.7倍です。2009年までは後者が多く、2010年以降に逆転しました。ただし後者も減ってはおらず、右肩上がりのままです。

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流通科学大学の柿沼英樹先生は、論文「タレントマネジメントと戦略的人的資源管理の言説空間の可視化:計量書誌学的手法による異同の検討」で、この2つの異同を検討しました。計量書誌学という手法で、どの語とどの語が同じ論文に現れるかを数え、語のつながりを地図のように描きます。

浮かび上がったのは、2つが別の場所に立っているという構図でした。頻出する上位113語をつながりの密度で5つのまとまりに分けると、両者は別のまとまりに入ります。期間を区切って時系列で追っても、まとまりが重なることはほとんどありませんでした。

共通する語もあります。人的資本、組織業績、競争優位。どちらも戦略に応じた人事管理で競争優位につなげる枠組みではあるのです。違うのは、そこから先の目の向け方でした。

タレントマネジメント側に多いのは、スキルや能力といった個別の要素、採用や定着といった個別の施策、従業員個人の成果を指す語です。戦略的人的資源管理側は、人的資本や社会関係資本といった総体としての「資本」、施策の束、組織レベルの成果でした。組織業績という語との共起は、後者が22回、前者は11回です。

もうひとつ目を引くのが、経営戦略に関わる語の偏りです。事業戦略といった語は戦略的人的資源管理側にはあるのに、タレントマネジメント側にはほとんど見当たりませんでした。

柿沼先生はここから、タレントマネジメントをミクロ的、戦略的人的資源管理をマクロ的と相対化できると述べています。組織業績につながる施策とは何かを論じるのが後者、その施策をどう実践して成果を引き出すかを論じるのが前者、と対置することもできるとしています。いずれも分析結果からの解釈であり、測定された事実そのものではありません。

なお本研究は、Scopusという文献データベースに収録された範囲の分析です。著者が付けたキーワードを手がかりにしているため、語の選び方によっては別の読み方も要ると、柿沼先生自身が限界に挙げています。

言葉の重なりを、確かめてから使う

論文が調べたのは学術研究の世界でした。けれど冒頭の人事会議に話を戻すと、同じ構図が潜んでいるのではないかと思えてきます。ここからは記事独自の読み方ですが、二つのことに気づきます。

ひとつは、同じゴールを掲げていても、語る言葉が違えば議論はかみ合わないということです。タレントマネジメントも戦略的人的資源管理も、組織業績の向上という到達点は共有していました。それでも語彙は分かれていた。社内でも同じことが起きます。人材開発の部署が個人の育成計画を語り、経営企画が要員計画を語るとき、両者は同じ「人材」という語を使いながら、見ている単位が違う。片方は一人ひとり、片方は組織全体です。会議の議事録を見返して、それぞれの部署がどんな語を使っているかを並べてみる。同じ議題なのに語彙が重ならないなら、意見が対立しているのではなく、単位がずれているだけかもしれません。

もうひとつは、使っている言葉に何が含まれていないかを見ることです。この研究で目を引いたのは、タレントマネジメント側に戦略の語がほとんどなかったという点でした。あるものではなく、ないものが議論の性格を示しています。自社の人材施策の資料を開いて、そこに出てくる語を書き出してみる。個人の成長を語る語ばかりで事業の方向を語る語がないなら、その施策は個人の話にとどまっているのかもしれません。逆に、事業の言葉ばかりで個人が出てこないなら、現場の一人ひとりは視野の外にあります。

似た言葉が並んでいるとき、中身も似ていると考えがちです。けれど言葉のつながりを数えてみると、重なりは思ったより小さいことがある。何を語り、何を語っていないか。その確認から、かみ合う議論が始まります。

記事原案 M.Sumida

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