停滞を打破する「遠投経営」の極意 変わり続ける組織の遠投経営
多くの日本企業が停滞に悩む中、絶えず自らを変革し成長を続ける組織には共通する条件・メカニズムがあります。本記事では、組織の慣性を打ち破り、変化を原動力とするための革新的な経営概念を紹介します。
組織の慣性を打破する遠投経営のメカニズムと3社の事例
南山大学の安藤史江先生は、論文『変わり続ける組織の「遠投経営」』で変革を遂げた中小企業3社(HILLTOP株式会社、大橋運輸株式会社、福田刃物工業株式会社)を対象に、2018年から2021年にかけて、経営陣や社員へのヒアリング等を含む質的な事例分析を行いました。
安藤先生によれば、組織変革には時代遅れになった知識を捨てる「組織アンラーニング」が不可欠ですが、組織には現状を維持しようとする慣性が働き、変革の障害となると述べています。
この慣性を克服するために安藤先生が提唱したのが「遠投経営」です。これは以下の2つを併用し、組織を外へと引っ張る経営スタイルです。
1. 経営トップによる高い(遠くの)希求水準の提示: 現状からは想像もできないほど高い理想を掲げる。
2. メンバーによる遠くの学習源の活用: 組織や技術の境界を越え、外部から新たな知見を取り入れる。
事例の3社は、かつては深刻な問題を抱えていましたが、遠投経営によって様変わりしました。HILLTOP株式会社は下請け脱却と無人加工を実現し、大橋運輸株式会社は地域密着のBtoC事業へ転換、福田刃物工業株式会社は、社員に任せる方針で全国営業を展開しました。これらの企業では、高い目標設定がビジネスモデルの転換を強制し、古いルーティンをアンラーニングさせました。その結果、内部の慣性を上回る外向きの力が発生し、組織の飛躍的なステップアップが実現したのです。
また、この循環を支える条件として、トップが挑戦の基盤となる収益を固めていることや、スキル以上に成長意欲という人間力を重視した採用を行っていることも明らかになりました。
実務に活かす遠投経営 変化を止めない組織文化の作り方
安藤先生の研究から得られる知見は、現代のビジネスパーソンが組織課題を解決する大きなヒントとなります。実務に活かすポイントは以下の通りです。
「遠すぎる目標」をあえて設定する
改善レベルの目標では、既存のやり方の延長線上(慣性の中)に留まってしまいます。あえて、今のままでは到底届かない高い目標を掲げることで、強制的にこれまでのやり方を捨てざるを得ない状況を作り出し、組織の再構築を促します。
組織の境界を越える「越境学習」を推奨する
社内だけの学びでは、内向きの慣性を打破できません。顧客の声を直接聴くなど、メンバーが組織の外にある学習源に触れる機会を意図的に設けることが、変革の原動力となります。
「厳しさを伴う心理的安全」を醸成する
遠投経営には、失敗を恐れず建設的な議論ができる環境が必要です。単なる仲の良さではなく、会社の将来のためにリスクを伴う提案ができる、本来の意味の心理的安全を確保することが、自律的な人材育成と組織の活性化に繋がります。
組織が停滞から脱却し、進化し続けるためには、常に遠くを見据えて網を投げ続ける姿勢が重要です。
外部の知見を柔軟に取り入れ、大胆な事業転換を恐れない「遠投経営」の実践こそが、変化の激しい時代を生き抜く組織の強さとなります。
記事原案 印部有紀
